『ウェブ・ユーザビリティ』 英文原題は『Designing Web Usability』。原書のデザインは、米国のウェブデザイン界では有名な著者であるヤコブ・ニールセンを前面に押し出したデザインとなっている。編集会議には、MdN代表の藤岡氏、担当編集者の吉田氏、デザイナーAR菊池氏、翻訳を担当したグエルの鈴木と川口が出席した。原題から「デザイン」という言葉を抜き、単純に「ウェブ・ユーザビリティ」とする提案は、内容を先行して理解していた翻訳者から出た。「デザイン」というよりサイトやページを「設計」する意味合いが濃い。より広い分野の方々に読んでもらいたい内容であるから、デザインという言葉を外すことに決定した。 表紙にはうっすらと罫線が入っている。加速的にスピードアップする時代に見合った書籍の内容とタイトル文字の配列から、どうしても薄くて細い横罫が欲しかったからだ。また、一切のビジュアルを排除したのは、テキスト・オリエンテッドなサイトを主張する著書の意図を反映したものでもある。 本書の内容は、ウェブに関わりを持つ者であれば、その八割以上を知っているはずである。その常識的な内容がデータをもとに明確に語られていることが重要なことなのだ。バイブルとして使える可能性が高い、というコンセンサスが編集会議に出席した者たちにはあった。ただし、ヤコブ・ニールセンは、いわゆる書き手ではない。しょうもないオヤジギャグをかましてくれたところもある。講演原稿やウェブ上での記事原稿を使い回しているためか、内容にダブりがあったり、論旨がボケてしまっていたり、サンプルが適当でない部分もあった。また、多くのアメリカ人に共通している過度の自己主張的発言もあった。そのような部分は、翻訳時にザックリと削り取ってしまっている。さらに、アメリカでは常識でも日本ではそうでなかったり、ウェブ・デザインに精通している人には当たり前の語句であっても、そうでない人には理解できないと思われる部分は、翻訳者と編集部で加筆している。 残念ながら、翻訳にあたって遣り残してしまったことがある。本文中で9箇所、自信が持てない部分がある。翻訳し直したテキストをウェブ上にアップしてフォローできないかと思案中である。テキストファイルまたは、レイアウトしたPDFファイルを読者にダウンロードしてもらい、正確な理解に役立ててもらうつもりだ。 また、本書発刊を機にインプレスコミュニケーションの主催で青山ブックセンターにてセミナーが開かれた。セミナーの参加者は、ウェブデザインを担うビットバレーからと思われる二十代前半の若いデザイナーや学生が多く、薄暗い会場の中でみな熱心にメモを取っているのが印象的だった。講演者は、本書の監修者である篠原稔和氏、ウェブサイトのデザイナーでありプロデューサーである伊藤幸治氏とケビン・マヤソン氏の3名。2時間弱と短時間だったが、先端を走る人でなければ出てこない発言が随所にあり、非常に中味の濃いセミナーだった。 本書は、発売直後すぐに増刷が決定され、8月9日にMdNの担当編集者より増刷準備のメールが入った。早い時期にやり残した個所を補修して読者に提供できることが、なによりも嬉しい。(2000/08/09 川口忠信) |