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■「花火の音は毎年聴きますよ」
と、表参道交差点そばにある大坊珈琲店のマスター、大坊氏は言った。紺色の地味な浴衣が今年の流行らしいが、着こなしている女性はほとんどいない。白地の浴衣を着た小粋な女性が用足しに席を立ったとき、「やっぱり花火は浴衣ですよ、ねえ」と、マスターが連れ合いの男性に声をかけた。カーキ色の半ズボンに白いTシャツを着た、うっすらとツッパリ髭をはやしたお兄ちゃんは、みなに注目を浴び、ちょっと照れにニッコリと笑った。若いんだ、と思った。笑い顔は年齢をいつわらない。
■「で、おたくはどうすんの?」
と、マスターは言った。「帰って音を聴きますよ」と私はこたえた。しばし、奥の席で原稿に赤を入れていたが、大ぶりの碗にたっぷりと入ったカフェオレも飲み干してしまったので、そろそろかな、と席を立つ。浴衣の彼女のほうに目をやると、あのお兄ちゃんと目が合った。彼は微笑を浮かべ、軽く会釈した。肉眼では認知できないテレビの走査線の切れ間を見たような感触がして、楽しい気持ちになった。
■「それで、何なの?」
と、自問自答して企画を練っていたら、朝になる。まだ、ウェブを構築する核が見つからず、「さあ、本番!」と声を発することができないままなのだ。う〜ん、どうしよう……。参考資料を読みウェブを見る。資料を読みながら、「へえぇ、そうなんだあ」と感心したり、「ほう、このチェックリスト、よくできてる。裏づけをとるときにピッタシだなあ。でも、インタラクティブな面が抜けてるから追加しとこう」と発想を広げたり、「馬鹿言ってんじゃないよ」とか人様のつくったものをこき下ろしたりして遊ぶ。逃げてる場合じゃないんだよなあ
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