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2001年12月3日(月) 落ち着き先が決まり、ご満悦のミュウ |

自分勝手な「鼻欠けブタ“ミュウ”」もこれで少しは仕事をしてくれるだろう
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■書くことを開始する日 書籍を書くことが決まると、必ず書きたくなくなる。悪い癖だ。難しそうに見えることを理解しやすく面白く表現できるとワクワクするし、きっとその情報が誰かの役に立ってくれるに違いない、と期待も膨らむのだが、いざ書き始めると、なんというか、少し大袈裟かもしれないが魂を売り渡しているというか、妙な罪悪感に襲われてしまうのだ。 伝えるべきことがボケてるから進まないのだ、と言えば実もふたもないが、やはり、踏むべき段取りを飛び越してはいけない。とはいえ、物事には締め切りがある。特にコンピュータに関する話は、時機を逸すると価値が半減することが多い。 今日は、神棚ふうの箱に収めた「鼻欠けブタ」に手を合わせ、「そんなことやってる場合じゃないんだが」、という言葉をできる限り使わないから、と約束する。書くことを開始する日は、私の場合、こうして決まる(ときもある)。 ■焙煎職人が復活する日 「珈琲豆は何をご所望でしょうか?」 と、京都から電話が入った。 「そうだなあ、メキシコは浅煎り、ブラジルはハイローストで、タンザニアとマンデリンはハイローストより少し深く、コロンビアはハイローストからフレンチまでの三種類あると嬉しいな」 「承知しました。まだ、ブレンドをどうするか迷ってるんですが、京都にいらしたときに、ぜひ試飲して意見を聞かせてください」 「感想程度ならいくらでも。いつも言いたい放題言わせてもらってるじゃない。とにかく、週が明けたら、そちらにお伺いしますよ」 「わかりました。お待ちしています。では」 と、電話は切れた。 それから、約束どおり、私は京都まで行った。開店準備中の『カフェ・ド・ガウディ』は、京都の住宅街の中にあった。 十年ほど前、板橋に住んでいたことがある。休日の午後、散歩していると、珈琲豆の香りがしてくる。『カフェ・ド・ガウディ』という看板が見えた。ガラス窓越しに中をのぞいて見ると、珈琲豆を煎(い)っている人がひとり。店主はまだ二十歳そこそこの青年だった。 会社づとめを辞めフリーになった私は、暇に任せて毎日、『カフェ・ド・ガウディ』に通った。珈琲のいろんな旨さをそこで教わることになる。通い詰めていると、同じ銘柄の同じ煎り方が表示された珈琲であっても、どこかが違うことに気が付き始めるものだ。私は彼に聞いた。 「なぜ、今日のブレンドは押しが強いの?」 「えっ、分かりますか。コロンビアという豆の配分を多くしたんですよ。お口に合いませんか?」 「いや、旨いですよ。なんと言えばいいか、味も香りも際立ってきたし、苦味も酸味もギリギリのところで踏みとどまってる、というか、…」 などと、感想を少しずつ話すようになった。彼は珈琲のこととなると、話が尽きなかった。豆の仕入れ方から焙煎方法、お湯の温度や注ぎ方、ネルドリップに使う針金の細工方法やネルの縫い方、ペーパーフィルタで美味くたてる方法、東京で珈琲の美味い店、などなど。嬉々として話すのだった。 彼にとって最大の課題は、仕入れた豆をいかに活かすかであり、毎日、いろいろな方法を試みていることに驚いたものだ。それにも増して私をうならせたのは、無駄のない動きと、繊細な心遣いだった。 彼との出会いが、建築家アントニオ・ガウディを知るきっかけとなる。図書館や本屋で資料を集め研究を開始した。調べるうちに、建築家ガウディを支援したエウセビオ・グエルという人物を知る。その息子たちの言動に感激し、新しく作る自分の会社の名称に「グエル」という名前を拝借した。それから十年以上の月日が流れている。 残念なことに、数年前、潔癖主義の彼は商店経営で悩み、体を壊して店を閉じた。みな惜しんだ。閉店するという日に店を訪れたが、彼は何も言わず、いつもと変わらない段取りでいつもの珈琲をいれてくれた。 そして、いつの間にか彼は上方へ移り、ある居酒屋でなんとか働いています、という賀状を一昨年もらった。似合わないな、と苦笑した。それっきり音信は途絶えた。 この夏、仕事で板橋に行く機会があった。帰路についたとき、そう言えば、彼の兄が近くで居酒屋をやっていることを思い出し、中板橋という駅で下車した。 店はあっけなく見つけることができた。店に入ると、女将が懐かしく迎えてくれた。よく覚えているものだ。女将は義理の弟が始めた珈琲店を開店当初に手伝っており、その頃に顔見知りとなったが、すぐに家業の居酒屋へ移り、それ以来会っていなかった。相変わらずシャキシャキっとして元気が良い。「京都にいる弟は少し元気を取り戻したようですよ」と話してくれた。「私は今、ここにいるんです」と名刺を置いて辞した。 数日たって、京都から電話がきた。「兄のとこ訪ねてくれたんですね。姉から聞きました。え〜っとですね、もう一度やってみようと、やっと思えるようになったんですよ」という電話だった。 それから半年。何度か電話で話を聞かせていただいた。なんとかこの冬までに『カフェ・ド・ガウディ』を京都の五条でオープンする運びとなったのである。 『カフェ・ド・ガウディ』は明日、12月4日に開店する。 |