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2002年3月5日(火) 夕刻冷えるも春到来 |

●つい腕組みしたくなる冷えた夕刻●
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■頭の中がスローモーション ねっとりしたジェルが書斎に充満している。時間が止まっているような、とても心地よい時間が過ぎている。面白いネタが次々に出てきて、つい横道にそれてしまう。だが、そんなときは、計画通りに執筆が進まないときでもある。目の前にあるハードルをひとつずつ超えていると、あるとき一気にワープする。面白そうな路地で遊ぶのは後にして、ハードルのあるトラックを今は走るとき。 ■Y氏とともに春到来? 未明に降った雨が大気を洗い流し、花粉を封じ込め、やさしい湿り気で街を包み込む。澄んだ大気を突き抜けてくる日差しが暖い。春到来か、と思ったが、午後から気温は急降下。夜にはコートの襟を立てて歩く。日経BP出版局のY氏はコートなしで大丈夫だっただろうか? ■蕎麦は冷たい“せいろ”が基本 打ち合わせの後、表参道駅近くまで同行し、閉店直前の蕎麦屋『古道』に駆け込む。今夜は彼から蕎麦の新たな食べ方を教わった。熱いけんちん汁に冷たいせいろ。この組み合わせは、蕎麦の香りを際立たせる。熱いけんちん蕎麦も鴨そぼろ蕎麦も捨てがたいが、冷たい蕎麦との組み合わせは、また格別。 ■珈琲はドラッグかもしれない 『大坊珈琲』では今夜も平常どおりドラッグ造り。合法的に麻薬を造り続けているのか…。 寡黙な表情をした薄茶色の生豆を、円筒形の二重鍋に入れる。上面中央にある直径3センチほどの丸い穴から2キロほど。鍋は円筒形の部分をガスコンロの炎でじかに熱する。ガスコンロの手前と向こう側に2つの支柱があり、その間に鍋を挟み込み安定させる。鍋底が手前にくるように、横向きに置く。手前の支柱が少し低くなっているのは、珈琲豆が口から漏れ出ないようにするための工夫。 鍋底にしっかりと固定されたハンドルを回すと、鍋が回転する。ガスの炎を調節しながら、マスターはハンドルの回転速度を微妙に変えながら、鍋を回し続けるのだ。ザザザッ、ザザザッ…。鍋の中で豆の踊る音だけが、しばし店に響き渡る。そして、プチッ、プチッと豆が弾ける音が微かに聞えてくるのだ。 間もなく鍋の口から白い煙が吐き出されてくる。不要な水分や余分なガスを追い出すのだ。白い煙と蒸された豆の香りが店に充満していく。白煙が少なくなり、パチッ、パチッと豆が強く弾ける音が聞えてくると、にわかに緊張した雰囲気となる。豆が煎り上がりが近い。ガスコンロから鍋を下ろすタイミングがほんの数秒狂っただけで、豆が台無しになってしまう、という。マスターの顔が真顔になる瞬間だ。 機を見て鍋を火から下ろすマスター。ハンドルごと鍋を抱え上げると、煎った豆が鍋の口から床に置いた大きな竹ザルの中に落ちるように、鍋の口を下に向け、ハンドルを持ったまま体を上下にゆする。体をゆするたびに、煎った豆が白い煙とともに、一気に外に飛び出してくる。むせ返るような香りにムッとするときもある。 はじける寸前まで煎られた豆は倍以上に膨らむが、深く煎るほど水分が飛び、軽くなる。二割以上軽くなるらしい。珈琲豆はグラム売りだから、同じグラム数でも、深煎り豆の方が浅煎りより量が多くなるのは、そのためだ。 大坊珈琲ではネルドリップを使っている。深煎り豆の分量を多めにし、低めのお湯を少量ずつゆっくりと珈琲に注ぐと、豆のエキスが際立って抽出される。このエキスはドラッグかもしれない。珈琲で酔ってしまうときがある。そんな世界に引きずり込まれたいときは、お勧めの店だ。 ■もくれんの花 青山墓地にもくれん(木蓮)の大木があるんですが、ご存知ですか?と、マスターは言った。外苑西通り沿いからチラッと見えるかな? 真っ白な花が木をおおいつくすんです。枝ぶりはいまひとつですが、壮観ですよ。見事というか、それだけじゃない何かがある気がするんです。毎年楽しみで。そろそろ咲く頃なんです。… 金曜日、ちょっと寄っていいですか、とマスターは言った。うちに来るらしい。じゃあ、『カフェ・ド・ガウディ』の珈琲でもてなそうか。不足してきたので、京都にまた注文を出しておこう。 |